第7章 チューイングガム(何味でも可)
「お前さん、コイツにそっくりじゃの」
去年これを習ったとき、そんなことを仁王に言われた。
コイツ、と言いながら仁王が指したのはジンジャーブレッドマンで、なんでクリスマスの飾り用クッキーそっくりなんだ、と面食らった記憶がある。
「逃げ足が速くて、しょうが入ってるとこ。後は俺の願望」
『わけわからん』
ばっさり切ってその時は終了したけど、後々その意味に気づいて頭を抱えた。
というか、今も困っている。
違うな。申し訳ない、と言ったほうが正しい。
「せんぱーい?」
『うわっ』
我に返ると、赤也くんの顔がすぐ近くにあった。
がらんとした教室に、椅子のずれる音が派手に響く。
「ひっでぇ。うわって何スか、うわって」
『あー、ゴメン。考え事してた』
「丸井先輩もそうだけど、最近空乃先輩もおかしくないスか?」
俺、心配でベンキョーに集中できないなーと言う赤也くんのプリントは、まだ真っ白だ。
「丸井先輩にカノジョできてから、なんか避けてるっていうか、溝があるっていうか」
『そりゃ、彼氏が他の女とベタベタしてたら、彼女は面白くないでしょ、普通』
「そんじゃ、俺に彼女ができたら、空乃先輩は居残りに付き合ってくれなくなると」
『学校帰りにゲーセンで勝負するのも断るだろうね』
「えー」
『そういうことだから、別にブン太と喧嘩したとか、嫌いになったとかじゃないぞー』
わかったら課題を進めようねー、と促すと、気の抜けた返事をして赤也くんはプリントに向かう。
彼は何問か空欄を埋めて(チラッと見ただけだが間違っていた)、それから手を止めて、尖らせた上唇と鼻の間にシャーペンを挟んだ。
なんとなく、赤也くんの鼻をつまんでやったら、ふがっ、と変な声を出したのが可笑しくて、思わず吹き出してしまった。
「いきなり何スか!」
『さっき驚かされたお返し』
鼻を押さえて怒る赤也くんが可愛くて、しばらく笑いが止まらなかった。
『それ終わったら、帰りゲーセン寄ろっか』
早くしないと補導される時間になっちゃうけどね、と言ったら、ものの数分で空欄が埋まった。
やればできるなら最初からやりなよ、と思いながら答え合わせをして、間違った問題の横にヒントを書いてやる。赤也くんの希望で、直しは宿題にした。
提出期限までまだ数日あるし、最初の質問もうやむやにできたし、まあ良しとしよう。