第7章 チューイングガム(何味でも可)
「空乃先輩って、ぶっちゃけ丸井先輩のことどう思ってんスか?」
何言ってんの切原、と咄嗟に口にしなかったのを褒めてほしい。
が、残念なことに放課後の教室には私と赤也くん以外に誰もおらず、つまり私を褒めてくれる人なんぞ、最初から存在のしようが無かった。うん、知ってた。
『どうせするなら英語の質問にしなよ』
「だって! どっから質問したらいいのかわかんないくらいわかんねーんスよこの問題!」
『せめて教科書見直すとか辞書引くとかして考えよう? それともなに? そのくるっくるの頭にストパー掛けられたい?』
「それはぜひお願いします」
……私も何言ってるんだろう。多分疲れているのかもしれない。
赤也くんの英語の課題を見守るために居残りをしているのであって、漫才をしにここに来たはずではないんだけど、さっきからこんな調子で脱線しっぱなしだった。
おかげで、始めてから結構な時間が経っているはずなのに、赤也くんの手元のプリントはいまだに白いところが目立っている。
西洋の昔話というか、子供向けの童話を題材にしたそれは、英語の先生お手製のものだ。
やっている内容はそれほど難しくないはずなのだが、教科書にはない問題文のため、解答に教科書の例文を引っ張ってきてちょっといじるという裏ワザが使えない。
そのためか英語が苦手な赤也くんには少々、いやかなり厳しいものと化しているらしく、なぜか私を教える係に指名してきた。
普段はレギュラーの誰かしらに教わりに行っているはずなのに、なんで今日に限って?
そんなことを考えていた時に、降ってきたのが冒頭の質問だった。
どうって言われても、ねぇ。
何となくプリントに目を落とすと、挿絵のジンジャーブレッドマンと目が合った。