第1章 昼時に焼きそば
声を追って、ついと見上げた先に銀髪が揺れる。平均よりも長身ではある彼だが、机に座ったままだと余計に大きく見えた。
一匹狼で知れているのに、絡んでくるなんて珍しいと思いながら口を開く。
『あれ、仁王じゃん。どうしたの?』
「ん、ちょっとブン太を借りに来ただけじゃき」
「え? 俺?」
ハムスターのようにもぐもぐしながらキョトンとするブン太に、呼ばれとる、と仁王が教室の扉を指した。隠れるようにしてこちらを伺う女子の姿に、ああ先週も来てた後輩か、と一人納得する。部活の後輩にそれとなく探りを入れたら、見た目は地味だけど性格はいい子だと聞いた。
「あいつ確か……誰だっけ?」
『とりあえず行ってきたら? 何かもらえるかもよ』
「よっしゃ!」
意気揚々と席を立った背中を見送りながら、思わず苦笑した。空いた席に入れ替わりに仁王が腰掛けて、いつの間にか手にしていた菓子パンの袋をばりっと開ける。オーソドックスなクリームパン。足りるのかな、とまじまじ見ていたら声をかけられる。
「なんじゃ、そんなに見つめられると照れるのぅ」
『いや、そのパンさっきまで隠してたのかなぁと思って。甘いもの食べてるのあまり見ないから、持ってれば気づきそうだし』
そもそも仁王が教室で昼を食べてることが既に珍しいのだが。ふうんと気のない返事の後に、パンを飲み込んだ仁王は痛いところをついてきた。
「お前さんこそガム隠し持っとるじゃろ」
『あらバレてた。しかもさっきの聞いてたんだ』
「プリッ」
『ま、別にいいんだけどね』
なんでブン太にやらなかったのかと聞いてこないあたり、きっと理由も察してはいるんだろう。廊下で後輩にお菓子をもらってはしゃぐブン太を眺めつつ、もそもそと乾いた焼ソバを頬張った。