第1章 昼時に焼きそば
「ふうかー」
『ごめん、邪魔だから今すぐどいて。あと嫌だ』
「まだ何も言ってねぇだろぃ!?」
午前の授業が終わるチャイムとともに、目の前の席にいる男子生徒がこちらに椅子ごと振り向く。
そのまま私の机にぐったりと延びてくる姿に、ぴしゃりと言ってやったところ予想通りの反応が返ってきた。
『見たとこガム切らしたんでしょー? あげません』
「ちぇー」
座りなおした幼馴染に一瞥くれてやり、お弁当を取り出しながら、ぐだぐだと軽口を叩きあう。
早弁していたはずのブン太の弁当は、まだそれなりに量が残っていた。
がさごそとかき回される鞄の中からスナック菓子の袋がちらりと覗いて、胃の容量どうなってるんだお前はと突っ込みそうになるのを飲み込む。
『そうだなぁ、そんな丸井君のために、空乃さんがお弁当の焼そばの紅ショウガを恵んでしんぜよう』
「紅ショウガだけかよ! お前最近ケチだぞ」
『元の量が少ないんですー。それにお弁当あるからいいじゃん』
「ガムとメシはまた別なんだよ」
目の前でぶすくれている幼なじみは、端から見れば全国的なテニスの選手である。
小さい頃から大会の応援も行ったりしてるし、すごい奴だっていうことも知ってはいるけれど、その実感は未だに持てずにいる。
小学校の中学年あたりからはそれぞれの友達と行動することも多くなったからか、今はそれなりに距離を置いていた。
今回の席替えで前後になってからは話すことも増えたが、中身まだ小学生なんじゃないのと思うことの方が多い。
「お二人さん、楽しそうじゃの」
結局向かい合ったままお昼をつつき始めた所に、上から声が降ってきた。