第4章 熱気を食らう
「お前、なんか縮んだ?」
『縮んでない』
そこまで言ったところで、昔もこんなことがあったなぁと思い出す。
小学一年生の陸上大会に出た時だ。スタートの時のピストルの音が苦手で、耳を塞いで走りだそうとしたら、盛大にずっこけた。その時はすぐ起きて走ったから上位でゴールしたけれど、それでテンションが上がって、怪我したことが頭から抜けてしまったのだ。
喜々としてブン太に順位を報告したら、膝からの流血のほうに盛大に驚かれて、そのまま有無を言わせず、よろけながら救護テントまで背負われていった記憶がある。
『おっきくなったのは、そっちでしょ』
「そりゃあ、お前の身長抜かしたしな」
『気にしてたんだ?』
「うっせ。てか、喋ってて平気なのかよ」
『出た、お兄ちゃんモード』
「あのなぁ」
軽く笑ったから、頭痛が少し酷くなった。それをごまかすように、肩に頭をあずける。
あの時よりもだいぶ背中が広くなったことに気付いて、驚くと同時に寂しく思った。知らない人に背負われてるみたいだなぁなんて、あまり回らない頭で考える。
少なくとも、私の知っているあの時のブン太とは、だいぶ変わってしまった。いつの間にかものすごく遠くに置いて行かれた気分がするのは、どうしてだろう。
『もうおっきくなったんだからさぁ、いつまでも私の面倒見なくていいんだよ?』
しばらくの沈黙の後に発した言葉は、我ながらとても元気のない声だった。
「ほっとくと何しでかすかわかんねぇ奴が言うな」
『だって』
「大事な奴のこと心配して何が悪いんだよ」
『えー』
結構恥ずかしいこと言うね、と突っ込んだら保健室に着いてしまって、なんだかんだうやむやにされてしまった。
顔が熱いのも動悸が激しいのも、早く静まってくれないだろうか。きっと熱中症のせいに違いない。