第3章 期間限定ドーナツ
予想外の宣言に途方に暮れていると、ちょいちょいと肩をつつかれて振り返った。
『あ、仁王』
「お困りのようじゃの。食うか」
差し出されたのは、駄菓子屋に売っているおかきだった。懐かしのソース味だ。思わず袋ごと受け取って、そこではたと気が付く。
『……聞いてたの?』
「お前さんの腹の音、よう聞こえたぜよ」
いや、今までの会話を聞いてたかを尋ねたかったんだけど、悪い顔で思わぬ返しをされてそれどころじゃなくなった。仁王とは結構席が離れてるはずなのに、よく聞こえたっていうことはつまり……まあ、相当恥ずかしい事態だ。
『うーわー……』
「ついでに言うと、ブン太の断食宣言もしっかりの」
「何で聞いてんだよ。つかお前関係ねーだろぃ」
「放っといたら、明日は槍が降りそうな気がしたんでな、つい」
たまらず机に突っ伏した私の頭上を、二人のやりとりが飛び交う。槍が降るという仁王の意見には概ね同意するが、なんだかんだ槍が降っても、うちの副部長ならなんとかしてしまいそうな気もした。
真田君が空に一喝したら、槍が彼を避けて降ってくるという様を想像して、思わず笑いが漏れそうになる。すごいシュールだ。おかげで、お腹の音でへこんでいた自分がなんだかバカバカしくなった。
『仁王、これありがたく貰うね』
起きあがって、半分くらい笑いを隠し切れてない声でお礼を言う。あ、だめだ、今日の部活でまともに真田君の顔を見られる自信がない。
「何じゃ、『槍降っても真田ならなんとかしそう』とか思ったんか」
『当てないでよ、というか同じ事考えてたでしょ』
「ピヨッ」
「ワケわかんねぇ」
話に置いて行かれてむくれるブン太に、とにかく、と話を続ける。別に、真田君の件を話したら言い触らされそうで怖いとか、そんなんでは決してない。
『仁王から貰ったおかき食べるから。ブン太も断食しないこと』
「足りるのか?」
『多分ね』
「……わかった」
ブン太がむすっとしたまま前に向き直ると同時に、本鈴が鳴る。まだあるからの、欲しかったら言いんしゃい、と私の頭を去り際にわしゃわしゃした仁王が席に戻るのを見て、机の下でばりっとおかきの袋を開けた。