第1章 【仁王雅治】会えない時間
「なにって……雅治のせいだよ……っ」
「そうか……すまんの」
「私不安で不安で……雅治にフられるかもとか考えて……っ」
「……」
「雅治がいないなら死んだほうがマシとまでっ……」
素直に「会いたかった」とか「寂しかった」とか言えばいいのだろう。
けどずっと抱えてきた不安をどうにかしてぶつけたかった。
そうしないと「もう無理」って……それこそ1番言いたくない事を口にしてしまいそうだったから。
「何言っとる、お前さんが死んだら俺はどうするんじゃ」
「だって雅治は私を避けっ、んんっ!」
私は雅治が大好き。
いくら放置されても、この人の事が好きで好きでたまらない。
だからこそ沢山涙を流してきたんだ。
私の唇に落としてくれる熱は、大体お遊びみたいなものばかりだったのに……
今彼がしてくれたキスはそんなんじゃない。
息が苦しくなるほどの熱い……本気のキスだ。
「避けてたわけじゃない。ただ忙しかっただけじゃ」
「でもほとんど毎日っ……!」
「参ったのう……隠しきれんか」
「何がっ……」
「降参じゃ、話すぜよ」
どうしてずっと「忙しい」と言っていたのか。
その訳を雅治はちゃんと話してくれた。
普段はしょうもない物を買うだけのお小遣いを貯め、柳生くんと一緒に毎日街へ繰り出してお店を見て回っていたそうだ。
なんのお店だろうと思ったけど……雅治は直ぐには教えてくれない。
「お前さんの事となるとどうもわからん……。これ、柳生のオススメを参考にはしちょるが選んだのは俺じゃ、受け取ってくれんか」
「……これパッチンガムでしょ」
「さあのう……まっ、触ってみんしゃい」
「やだよ……!罠だってわかってて触るなんて……うわっ!」
差し出してきたのはどう見てもパッチンガム。
こんな時にまで冗談はいらないって、私は触ろうとしなかったんだけど……
雅治がいきなりガムを持った手で私を引いて抱きしめてきたものだから、少しだけ触れてしまった。
でもパチンとならない。
どういう事だろう。
「雅治……?」
「うまくハマったか」
「何が……?」
「手、よう見てみんしゃい」