第8章 その距離、13.5センチメートル。~獄寺隼人~
____『獄寺くんっ』
校門に背中を預けて音楽を聴いている彼の名を呼ぶと、彼は片耳につけていたイヤホンを外し、こちらに向き直った。
『ごめんね、遅くなっちゃって』
私は野球部のマネージャーを務めている。
試合が目前に迫っていることもあり、今日は部活が長引いた。
「別に。んな待ってねーよ」
「~獄寺~またな~気をつけて帰れよ~」
『武もーっ、また明日ねー!』
「ちっ…野球バカ…」
野球部のエース・山本武とは幼少期からの幼なじみ。
獄寺くんと武はツナを交えて三人でよくつるんでいるけど、どうやら獄寺くんは、武をあまり好きではないらしい。
ことあるごとに武をライバル視しているらしく、
たとえば私が武と部活の話をしているだけで、睨まれたり機嫌が悪くなる。
「おら、下校時刻すぎてんだろ。親が心配する前に早く帰んぞ」
『あ、待ってー』
獄寺くんは、付き合い初めてから部活がある日は必ず家まで送ってくれる。
私と獄寺くんの家は方向が違うし、私の家は武の帰り道すがらにあるから、それまでは部活の日は武と帰っていたから、わざわざ大丈夫だよと言ったけど、
なおさら嫌なんだよ、ってここでも武に対抗心を燃やしている。
…帰り道、ほとんど会話はない。
だけど、「お前危なっかしいからこっちにいろ」といってわたしを歩道側の壁際に歩かせて自分はその隣で対向歩行者や自転車から私を守ってくれる、彼の不器用な優しさに触れられるこの時間が私はとても好き。
『今日、寒いね。』
「…おー」
『昨日暖かかったのにね。なんでだろね』
「さあな・・・」
基本、私から話しかけるも、会話はほぼほぼ続かない。
ツナくんの話の時だけは、目を輝かせながら人が変わったようにマシンガントーク。
ツナくんが、羨ましい。
まだ付き合って日が浅いし、仕方ないと思うけど。