第11章 五里霧中
「いえ、なんでも。」
いつもの取り繕うような笑顔でかわされてしまった。
そうなると深く問い詰めることも出来なくて「そうか」としかこたえることができない。
さっきの顔、なんでもないわけないだろ?
そう言いたかった。
でもそれよりも先に、口からこぼれそうになって押し込めた言葉があった。
違う、その笑顔じゃない。
声に出なくて良かったと心底思った。
なんなんだこれ。何言おうとしてんだよ…。
1人悶々としている横ではライドウとさゆがこの間見かけた猫の話で盛り上がっている。
こいつらいつもこんな取り留めのない会話をしているのか。
「で、その猫のかわいいところがさ〜」
「あーわかりますそれ!!いいなぁ〜」
ライドウが身振り手振りで状況を説明し、さゆがそれに楽しそうに笑いながら応える。
なんともない会話の風景。
なんだかそれが少し羨ましいと思ってしまった。
さゆと俺ならこんな会話はしないだろう。
そもそも今までさゆと交わした会話といえば受付で自己紹介をした時だけじゃないか?
……まじか。アレだけか。
しかも失礼女って…。
頭を抱えたくなる。
本当にカカシ上忍は俺の何を見て気になってるなんて思ったんだろうか。
…というか俺はなんで今軽くショック受けてるんだ?
別にカカシ上忍の言うような変な気はない。
ただ自分の中で浮かんだ仮説が罪悪感を生んでいるのだろう。
ああ。きっとそうだ。
もう一度ちらりとさゆを見ると楽しそうに笑っていた。
……これなんだよな。
さっき俺に向けたのと違う、きっと俺には向けられないであろう笑顔がそこにいる。
チラリとで良い。
こっちに向かないだろうか。
そんな事を考えてしまうあたりやっぱりカカシ上忍にいわれて意識し始めてしまっているのだろう。
……落ち着こう。
「買い物があるから、俺はこれで失礼するわ。」
タイミングを見てそう言うと、おーと返事をするライドウの声を背に、振り返らずに廊下を進んだ。