青春あやまち論anotherstory 【黒子のバスケ】
第5章 寂しそう
私が覚えているのは、テスト範囲の葵の上とか紫の上。あとは朧月夜に明石の君、末摘花…。
あれ、私意外と覚えてんじゃん。
「その気持ち。少しわかる気がするアル」
自分の記憶力の良さに感心しながら、他にないかな。と記憶を辿っていると、劉が小さな声で言う。
「わかるって…何が?」
源氏側の気持ちがわかる、なんて言われた日には、私はどうしようか。
劉がタラシ……いや、あながち間違ってないかも。
劉は福井ちゃんの余計な入れ知恵のお蔭で天然タラシだし。
そっちじゃないにしても、男の劉に女の気持ちがわかる、ってことあんの?
それはないかなー…多分。
「離れたくないのに離れなきゃいけない辛さアル」
「ああ、明石の君ね。でも、結局源氏は都に戻った後に、明石の君を自分のとこに呼ぶんだよ」
「そうアルか…」
ハッピーエンド、ではないが、それとなく結末を伝えてみるが、それでも劉の表情は暗い。
何か、あったわけ?
「源氏は自分のところに呼べたかもしれないアル。でもワタシにはできないアル」
「どうして?」
「あまりにも遠すぎるからアル」
寂しそうに微笑んだ劉の顔は、どことなく悲しかった。
「中国に置いてきた好きな子でもいるんだ?」
多分そう言うことなのだろう。話の流れ的に。
だから柄にも無く、こんな切なげな顔をしてるんだ。
でも、一年以上劉と一緒にいて、そんな話は一度も聞いたことがない。
聞き流してたのかな…私。