青春あやまち論anotherstory 【黒子のバスケ】
第10章 奪われた
その手を取り、私たちも寮の方へ歩き出した。
「ねぇ、劉。今更なんだけど…送るってったって、男子寮と女子寮は隣じゃん?福井ちゃんたちの家も同じ方面なんだし、別に福井ちゃんたちと帰っても良かったんじゃない?」
私が今言った通り、陽泉高校の男子寮と女子寮はお隣さん。
ただ、互いの寮を行き来することが禁止されているだけ。
そして、私たちの住んでいる寮のすぐそこに福井ちゃんの家、それより少し先を行ったところにあるのがアゴリラの家だ。
「いいアル。ワタシが鈴佳と帰りたかっただけアル」
「なんか今日の劉は優しすぎてキモイな…」
いつもは私に厳しい監視役の劉さん。
なのに、今日は私を寮から引きずり出すためにわざわざ私の好きな花火を提案したり、手まで繋いで一緒に帰ってくれたり…。
後から仕返しでもきそうな勢い。
私が小さく笑いながら劉に言うと、いつもなら「うるさいアル」とでも言いそうなところを、劉まで笑っていた。
ホント…気持ち悪いなぁ…。
「じゃあさ。優しさついでに、一つお願いしてもいい?」
「何アルか?」
「おんぶしてよ」
「は?」
私が笑いながら言うと、劉は訝しげな顔をして立ち止まった。
「いいじゃん。お願い」
「……今日だけアル」
ホント、今日の劉は優しいな。
さっきの話に同情でもしてくれてんのかな?