第4章 水蜜桃の果汁
とにかく今年のクリスマスが随分豪華になる事だけは分かった。そして全員が借り出され、めぐみが天使の格好をする事も分かった。きっと恐ろしく似合うだろう。可愛いその姿を想像するだけで癒される。しかしその『天使さん』とやらを取れというのはどういう意味だろうか?めぐみは「てんしさんとって!つばさ、とって!あきらちゃんがいうの」とせがむ。玲がどうしたというのだろう。まさかめぐみからその『天使さん』とやらを無理矢理取り上げた訳ではあるまい。娘のように可愛がるめぐみに不愉快な事など無いよう日夜努力している彼女の事だ、何か考えがあっただろうかととりあえず「分かった」と返事をしておいて、電話する。携帯電話の電波の先は、今頃セット仕事に追われているだろう彼女のもとだ。
『翼?何か用?』
「めぐみが天使をとれっていうんだけど、どういう意味?」
『ああ、翼のところに行ったの?実はね…、』
なるほど、そういう事か。内容を聞き終えた翼はパタンと携帯を閉じて、暇そうにまだ脚をブラブラさせているめぐみを見る。そっとその手をとって、翼は言った。
「天使さん、取りに行こうか」
途端パァッと笑顔になるめぐみはウキウキと胸躍らせる。途中すれ違った若菜が恨みがましい目で見てきたがそこは翼。フフンと鼻で笑ってやれば、奴は手に持っていた包装紙を全て地面に落下させた。後ろで彼が責められる声を聞きながら、翼は部屋の前で立ち止まる。整備室だ。パスワードを入力して中に入り、めぐみの手を引きながら棚の一番上から箱を取り出す。男性としては少し小柄な翼でさえも届く棚だが、まだまだ小さなめぐみには届かない。それ以前にパスワードを知らない上にその部分にさえ届かず場所も知らないのだから無理だろう。そっとその包みを開けば、可愛らしい羽のついた衣装が出てきた。