第1章 崩れる、音がする
僕は、嫌な感じがしながら、恐る恐る主の部屋を開ける。
――すると、十二単では抑えられない異臭に包まれていた。
掃除嫌いな僕でも、流石にこれは掃除したくなるほどの汚さ。
――それ以上に、畳の上に散らばっている黒い液体が気になる。
これは……、主の便?
主の便らしき物体は、真っ黒で……、まるで石油みたいだ。
「主、主。ねぇ、起きてよ。掃除するから」
僕は、主を揺さぶろうとして、手を触れた。
――すると、その足は冷たくて……。
「誰か、誰か!! 主の足が冷たいんだ!!」
凄い勢いで長谷部が走ってくる。
その後、複数の足音も聞こえてくる。
「姫、本丸へ連絡しろ!」
「う、うん。わかった」
審神者の能力がある僕と、主だけ本丸に連絡することができる。
僕は、猫の式神を出して、本丸に伝える文を手渡した。
実のところ、連絡手段はこれしかない。
外の世界は近代的になってるけど……、そうしてしまうと、歴史修正主義にジャックされた時が怖いんだ。
過去に一度、それが原因で本丸が占領され、大変だったから……。
「くそっ、手遅れか……」
「長谷部、長谷部。僕、どうしよう?」
「とりあえず、主のご家族に連絡をしてくる」
「う、うん……」
頭の中が真っ白になって、どうしたらいいかわからない。
そうやって、僕があたふたしてる間に、みっちゃんや歌仙が主の部屋を掃除し始めた。
「タール便だね。これが出ると、もう手遅れなんだ……」
「そうなんだ……」
いつ、こんな状態になったのかわからない。
僕は、主の近侍だったのに……。
近侍失格だ……。
「姫ちゃん、最後に呼ばれたのはいつ?」
「え、えっと。お昼にご飯を食べるって聞いただけで。体が辛いから、食べたくないって。薬貰えば治るって……」
「主の病院嫌いが祟ったね……」
どうしよう、僕の責任だ。
もっと早くに、病院へ連れて行けばよかったんだ。
「そんなの病む必要はないさ。主の病院嫌いは根っからだし、先が長くないのは目に見えたさ」
「ありがとう、歌仙」