第84章 【ホントウハ】
「英二、どうしたの、急に……?」
「誰か、大至急で新しいタコ焼き焼いて!、あと小宮山が焼いたのは捨てなくていいから!」
英二くんは私の振り絞った声にも、クラスメイトの問いかけにも答えずに、大きな声で全体へと指示を出すと、それから勢いよく歩き出す。
英二くん、どういうこと……?
彼のその行動は当然だけど、私をひどく混乱させて……
だけど握られた手首が温かくて、それから凄く懐かしくて……
『ところで、まだその英二先輩が来てないようだけど……また遅刻かー?、おーい、英二ー!、愛しい彼女が待ってるぞー!』
さっきから煩く流れているアナウンス……
呼びかけがメイン会場から英二くんへと変わったのを感じて、ハッとする。
ダメ、混乱している場合じゃない……!
英二くんに合わせる顔なんかないし、それより英二くんの格好……
鳴海さんをエスコートすべく、フォーマルなスーツに身を包んでいる……
初めて見る英二くんの制服じゃない礼装は、いつものカジュアルな装いとのギャップもあって、凄く格好よくて……
でもそれは、私のためではなくて、鳴海さんのための格好で……
そう、鳴海さんのもので……
離して……!、そう慌てて繋がれた手を振り払う。
だけど、英二くんは決して私の手を離してはくれなくて、それどころか、振りほどかれないようさらにキツく握られて、そのまま勢いよく引かれ続ける。
やっと立ち止まったのは、一番近くの水飲み場……
どうして水道なんかに……?、意味がわからず戸惑う私の手を掴んだまま、英二くんは勢いよく蛇口をひねった。
「……小宮山、手、火傷してる」
冷たい、そう感じると同時に、ずっと無言だった英二くんが口を開く。
あ、そう言えば……!
ずっといっぱいいっぱいだったから気がつかなかったけど、タコ焼きを焼いてる間中、何度も鉄板に手が触れちゃって、だけど、そんなこと構っている余裕なんか全然なくて、焼きあがってからは、その失態にそれどころじゃなくて……