第84章 【ホントウハ】
気付いた途端、痛み出す指先……
大人しく、英二くんにされるがまま、流水で手を冷やす……
「ちょっと、英二、どういうつもり……って、璃音、火傷してたの!?」
慌てて追いかけてきた美沙が、驚きの声を上げる。
ごめん、気がつかなかった……、私に申し訳なさそうにする美沙に、いいえ、私だってそうですから……、なんて首を横に振る。
本当、自分ですら気がつかなかったくらいなのに……
そりゃ、私の究極の不器用を一番知っているのは英二くんだから、火傷のことくらい、容易に想像が出来ただろうけど……
でも、だったら、口で言えばいいだけの話……
どうして、みんなの前なのに手を引いてくれたの……?
どうして、強く優しく握りしめてくれたの……?
どうして、いまだにその手を離そうとしないの……?
それから……
どうして、私はこの手を振り払えないの……?
英二くんは鳴海さんのものなのに……
第一、合わせる顔なんかないのに……
ずっと逃げ回ってきたくせに、一度その懐かしい温もりに触れてしまえば、一気に膨れ上がる愛しさで、とても自分から振りほどくなんてできなくて……
勢いよく跳ね上がった水滴が、英二くんのシャツと上着の袖口を濡らす。
♪〜、また彼の携帯がLINEの通話を知らせる。
メイン会場からの呼び出しも、ずっとひっきりなしで……
「え、英二くん……鳴海さん、待ってますよ……」
ずっと無反応だった英二くんの手がピクッと震える。
そうだよ……もう本当にミスコンまで時間がない……
英二くんのその格好だって、メイン会場まで向かっている途中だったんでしょ……?
こんなところで、私のことなんか、構ってる場合じゃないじゃない……
「____言われたくない……」
小さく聴こえた英二くんの声。
水音でちゃんと聞き取れず、え?、そう聞き返す。
「小宮山にだけは、言われたくない……」
今度こそはっきり聴こえたその声は、かすかに震えていて……
でもその言葉の意味はよく分からなくて……
戸惑う私に、小宮山だけは言わないでよ……、そうもう一度、消えそうな声で英二くんは呟いた。