第84章 【ホントウハ】
「ちょっと美沙に璃音!、話なんかしてないで手伝ってよ!、もうてんてこ舞いなんだから!」
クラスメイトの声にハッとして振り返ると、いつの間にかお会計はすごい行列になっていて、焼きあがっていたタコ焼きも余裕がなくなっていて、ちょっと、まだ?、早くしろよ、そうお客さんたちが口々に不満げな声をあげていた。
「うわっ、なんでこんなことになってんのよ!、璃音、ちょっとあんたはタコ焼きやいて!私、会計の方に入るから!」
え……!?
ピクリ、思わず頬をひきつらせる。
あんたはタコ焼き焼いて……?、今、美沙、私にそう言ったの……?
そ、それだけは、絶対、ダメでしょう……!
私がタコ焼きを焼いたら、どうなるかなんて容易に想像がついて……
タコ焼きとは呼べない物体ができるのは、もう考えなくても分かりきっていて……
「ちょ、美沙、待ってください!、お会計は私がしますから、タコ焼きのほうを……」
お願いします、そう言い終わらないうちに、もう美沙はテキパキと会計をこなしていて、だ、誰か、なんて周りを見回したところで、みんなそれぞれ忙しそうで……
ダメだ、変わりにお願いします、なんて言える人、誰もいない……
目の前の鉄板をじっと眺める……
その鉄板はさっきからかなりの熱を発しているはずなのに、サーっと血の気が引いた身体では、全く熱さを感じなくて……
どうしよう……
こんなことになるのなら、美沙にだけは私の究極の不器用のこと、ちゃんと話しておけば良かった……
「璃音、早く!」
「は、はいっ!」
後悔したって後の祭り……
やるしかない……大丈夫、お母さんが家で作ってくれるのを何度も目の前で見ているし、作り方は完全に頭に入っている!
何度かひっくり返すのに挑戦したことだってある!
……成功した記憶はあまり無いけれど……
大きさは違えど同じたこ焼き機だし、為せば成る、為さねば成らぬ、何事も、成らぬは人の、為さぬなりけり!!
やれないと言ってやらないのはダメだよね、そう腹をくくって法被の袖を腕まくりすると、それから、よしっと気合いを入れて油を鉄板に流し込んだ。