第84章 【ホントウハ】
「クソクソ、菊丸の野郎、そこらじゅうにポスター貼ってやがる!あいつの彼女がこんなにカワイイなんて、ふざけんな!」
「まぁ、確かに可愛い子やね……でも、この子、どっかで見たことあれへんか?」
「なんだよ、侑士、菊丸の彼女、つまみ食いしてたのかよ!?」
「アホ、んなわけあるか……」
……あ、そうだ、英二くんのデータDVDで見たんだ!
あれは……そう、氷帝戦、怪我をした大石くんの代わりに桃城くんと組んだダブルスの試合……
掲示板に貼ってあるミスコンのポスターを眺めながら、そう話してる2人の会話にその映像が鮮明に蘇る。
別れてからは辛くて見てないけれど、そういえばあの人のプレイスタイル、英二くんと似ていたから……
結局、英二くんはアクロバティック対決より、先輩として大石くんの役割を果たして、桃城くんと見事に勝利したんだよね……
あの試合は数ある英二くんの試合の中で、私がより気に入っているものの1つで……
不二くんと一緒に組んだ試合も良かったし、唯一出たシングルスの試合も好きだけど……
そんな彼らが見ているのは学園祭のメインイベント、ミス青学コンテストの宣伝ポスター。
この後、中庭のメインステージでもうすぐ始まるそれは、学園中にポスターが貼ってあり、さっきからうるさいくらいに放送が流れている。
「あー、ウルセェ!侑士、さっさと帰ろうぜ!」
「岳人、お前、この前、告白して振られたからって、そう荒れんでもえぇやろ……」
……なるほど、英二くんに対する対抗心だけでなく、失恋のショックもプラスされているのね……
でもあの人、プレイスタイルだけじゃなくて、なんとなく英二くんの可愛いところも似てるかも……
頬を膨らませてふてくされるその様子は、どことなく英二くんのそれを思い出させて、思わず頬が緩んでしまう。
それから、私もあんな風に素直にうるさいって叫べたら、どんなにいいかな……、なんて、何度も繰り返されてるミスコンの放送を恨めしく思った。