第84章 【ホントウハ】
「なぁなぁ、あんた、タコ焼きくれよ!、納豆タコ焼き!」
「……ナットウ……タコヤキ……?」
目の前に現れたおかっぱの男の子は、少し興奮気味にそう注文した。
納豆タコ焼き、初めて聞いたその言葉に、一瞬、思考回路が停止する。
納豆タコ焼きって何?、タコの代わりに納豆が入っているの?
家でお母さんが作ってくれる時は、ウインナーやキムチ、餅チーズとか、とにかく色々なものを入れてくれるけれど、納豆は今までなくて……
納豆ってオムレツになら入っている時はあるけれど、タコ焼きにも合うのかな……?
そもそも、そんなの、本当にあるの……?
「岳人、無茶言うなや、可愛いネコのお嬢さんが困っとるやないか……」
すっかり固まってしまった私に、納豆の彼の後ろから現れた背の高いエロヴォイ……もとい、セクシーヴォイスの関西弁男子がその人を制止する。
「あ、あの、納豆入りはちょっと……」
「なんでだよ!?、あんなに美味いのに!品揃え悪りぃなぁ……」
「岳人、いいかげんにせぇ、ほんまに堪忍な、たこ焼き2つ、貰おか?」
やっとまともに注文してくれた……、そう内心苦笑いしながら、400円になります、そう言ってたこ焼きを2パック袋に入れて手渡すと、おおきに、ほな500万円、そう言ってその関西弁の男子はお金を差し出す。
500万円……?、不思議に思って覗いた手の中にあったのは500円硬貨が1枚……
あ、500円ってこと……そう理解して、はい、100円のおつりになります、そう何事もなかったかのように手渡した。
「あかん、通じんかったわ……」
「バーカ、女がみんなお前の寒いギャグに笑ってくれると思ったら大間違いなんだよ!」
あ、もしかして、今、100万円って言うところ……?
そう気がついた時には、もうその2人はブツブツ言いながら去っていった後で……
悪いことしちゃったかな……?
あ、もしかして納豆たこ焼きもウケ狙いだった……?
そんな風に思いながら見送った彼らの背中は、なんとなく見覚えがある気がして、なんでだろ?、なんて思って首をかしげた。