第83章 【ガクエンサイ】
「それじゃ、小宮山先輩、何しますか!?、金魚すくいなんてオススメっすよ?」
ひと通り、挨拶やお礼が終わると、桃城くんがそう誘ってくれる。
男子テニス部のブースは、遊戯系屋台をいくつか集めた模擬店で、オススメだと言う金魚すくいの他にはヨーヨー釣り、スーパーボールすくい、射的に輪投げなど、子どもが楽しめるものが多くて……
その通り、テニス部目当ての女の子以外のお客さんはお子さんが中心で……
「えっと……私、こういうの、やったことなくて……でも多分、すごく苦手だと思います……」
小さい頃からコレ系のものは遠くから眺めてるだけで……
人と関わるのが苦手だったから、屋台のフレンドリーなお店の人に近づけなくて……
そもそも、どうせ失敗するのが分かりきっているのに、やりたいなんて思わなくて……
「だったら、尚更、やりましょうよ!、失敗しても1匹サービスしますから!」
「あ、でも……うち、ネコがいますので、金魚は……」
あの暴れん坊のネコ丸のことだもん、金魚なんか飼っちゃったら、確実に悪戯するに違いなくて……
そうなったら金魚が可哀想だもんね……
「……ネコっすか?」
私のその言葉に、ずっと黙々と仕事をしていた海堂くんが反応する。
え?って思って、海堂くんの顔を見ると、輝かせた目を泳がせていて、それから、頬が少し赤くなっていて、どこかソワソワしていて……
海堂くん、もしかして、ネコ好きさんなのかな……?
写真、みます?、そう言って携帯を手にすると、いいんすか?、そうかなりの勢いで食いついてきて、それから、あ、いや……すんません、そう恥ずかしそうに言葉を濁した。
か、海堂くん、可愛い……
海堂くんの印象は、見た目はちょっと怖くても、礼儀正しくて素敵な人だなって思っていたけれど、今まで、可愛いなんて感じたことはなくて……
でも、ネコと聞いた途端、一気に変わったその雰囲気に、思わず頬が緩んでしまう。