第83章 【ガクエンサイ】
条件反射だった。
条件反射で、生徒会の仕事も待っていてくれた不二くんの気遣いも、中途半端に放り出して走り出した。
人混みをかき分け、走って、走って、走って……
息が苦しくてもう限界で立ち止まると、そこはあの体育館裏で……
私、まだ自然とこんなところに来ちゃったんだ……
ここに来たのは、あの日、英二くんと鳴海さんのキスを目撃して以来初めてで……
思い出すのが辛くて、近づかないようにしていたのに……
そっと後ろを振り返る。
良かった……英二くん、追いかけて来てない……
そうホッと胸をなでおろすと同時に、そのことがすごく悲しくて……
私って、本当、ワガママ……
英二くんと鳴海さんが一緒にお弁当を食べていた木の下が目にとまる。
途端に思い出す2人のキスシーン……、やっぱり、涙が溢れて止まらなくなる。
だから、来たくなかったのに……
「小宮山さんっ!」
思い切り肩を引かれてビクッと大きく身体が跳ねる。
振り返るとそこには不二くんが心配そうな顔で覗き込んでいて、それから、ゴメン、つい、そう慌ててその手を離した。
「あ、違うんです、その、本当に驚いただけで……別に、怖かったわけじゃ……ありませんから……」
そうは言ってみたけれど、途端に襲ってくる嫌悪感は拭いきれなくて……
不二くんはアレから私に触れないように、細心の注意を払ってくれている。
そんな彼にいつまでも気を遣わせて申し訳ないのに、身体の震えも胸の動機も止まらなくて……
不二くん、心配して来てくれているのに、どうしてあの時のことを思い出すの……?
もう、何もかも嫌になる……
自分自身、どうしようもない気持ちが溢れ出して、ますます涙はその勢いを増していって、とうとう立っていられなくて、その場に座り込む。
ごめんなさい……、そう何度も繰り返してひたすら涙を流した。
不二くんはそんな私の涙が落ち着くまで、ただ黙って隣に座ってくれていた。