第83章 【ガクエンサイ】
あの日、空港で最後に見せたナオちゃんの寂しそうな目、声……
色々あったけど、2人が今、落ち着いているなら、本当に良かった……
ナオちゃんは学校生活、辛いかもしれない……
でも、香月くんが支えてくれるなら、きっと大丈夫だよね……
「あの、2人に伝えてください……ありがとう、それから……幸せに……と……」
そう呟いた私に、大石くんは目を見開いて、それから、ゆっくりと瞳を閉じると、なにかを考えている様子で……
そんな大石くんに、今まで黙って私たちの話を聞いていた不二くんが近づいて、ぽんっとその肩に手を乗せる。
「大石、ほら、小宮山さんは強い人だろ?」
「……ああ、不二、本当に……って、不二!?」
今まで私に謝ることと、話に夢中になっていたのか、大石くんはテント内にいる不二くんの存在に気がつかなかったようで……
突然掛けられたその声に、凄く驚いた声を上げる。
驚いたのは不二くんの存在だけじゃなく、彼の王子様衣装に対してもだったみたいだけど……
なんて格好してるんだ……いや、似合うな……、なんて、すぐに感心していて、その様子がおかしくてクスクス笑ってしまった。
「どうぞ、楽しんで行ってくださいね、これ、パンフレットで……」
「おーいしー、みーっけた!!」
パンフレットを差し出したその瞬間、ドンっという衝撃とともに飛び込んできた笑顔……
赤茶の髪によく似合うネコ耳カチューシャ……青いお祭りのハッピ……
大石くんの背中に飛びついて、すごく嬉しそうな……
え、いじ、くん……
「英二っ!」
「何だよ〜、まだこんなところにいたのかよぉ?、約束の時間、とっくに過ぎてるぞ?、大石にしては珍し……」
大石くんのことしか見えていなかった英二くんの視線が、ゆっくりとこちらに移動する。
私の存在を確認して、その大きな目をさらに大きく開かせる。
「……小宮山……」
ガタガタと立ち上がると、不二くん、あとはお願いします!、そう慌ててその場から走り出す。
小宮山、待って!、止める英二くんの声を無視して走り続けた。