第83章 【ガクエンサイ】
受付の仕事も残りあと10分……
そろそろ次の人が来て引き継ぎの時間かな……?、なんて思いながら携帯の時計を眺める。
「すみません、こちらに記入すればいいですか?」
「あ、はい、すみませ……」
携帯から慌てて視線を上げると、そこに立っていたのは見覚えのある男の人……
あ、そう思わず声をあげた私に、彼も目を見開いて、それから爽やかな笑顔を曇らせる。
「こんにちは、えっと、大石くん、ですよね……?」
気まずそうな顔は、英二くんのことを気にしているから……だよね……?
大石くんは英二くんの一番の親友だから……
私はその絆の強さを目の当たりにしたことはないけれど、きっと他のテニス部の人たちとは比べられない、決定的に違う何かがあるんだと思う……
「小宮山さん、本当に申し訳ない!」
ガバッと腰を曲げて、謝罪をするその様子は、以前、河村くんの家で謝られたときと同じ……
ああ、本当、大石くんって律儀というか、真面目というか……
……私がいうのもなんだけど……
「気にしないでください?、私、大石くんに謝られることされてませんから……」
「……だけど、英二のやつ、君を……」
辛い顔をして言葉を濁すその様子に、だから大石くんがそんな顔、する必要ないじゃないですか、そう言って苦笑いをする。
本当、大石くんが英二くんや他の人たちから何をどのくらい聞いているか分からないけれど、多分、鳴海さんとのことだよね……?
もしカラオケ店でのことなら、いくらなんでも英二くんだって人に言わないだろうし、もし話してたとしても大石くんほどの気遣いができる人なら、こんな風に私に話を振ったりしないだろうし……
どちらにしても、やっぱり大石くんが謝る必要なんてないのに……
「……英二くんにだって、謝られること、されてませんよ?」
え?、そう戸惑う大石くんに、だって、仕方がないことですもん、そう言って彼の顔を見上げる。
人の気持ちは流動的だから……それを責めることなんてできないから……