第83章 【ガクエンサイ】
去年も思ったけど、高校の学園祭って本当にすごいな……
学校が違うから正確に比較はできないけれど、中学のときとは規模も華やかさも桁違いのそれに、ただただ圧倒されてしまう。
他校生も多いけど、結構、家族の方もいらしてて……
文化部にとっては、日頃の活動の成果を発表する最大の見せ場の一つだもんね……
「……お疲れさま、はい、差し入れ」
家族、他校生、卒業生、それぞれ分けて書いてもらった訪問者リストを眺めていると、とん、と手元に置かれた紙コップとその声に顔を上げる。
それは予想通り不二くんなんだけど、予想外だったのは彼の服装……
まるで絵本から飛び出てきたような王子様の姿に、目を見開いて固まってしまう。
そんな私に、どうしたの?、そう彼がクスッと笑いかけた。
「あ、いえ……だって、不二くん、似合いすぎです」
思わず見惚れてしまいました、そう言ってクスクス笑うと、小宮山さんにそう言ってもらえるなんて嬉しいな、なんて不二くんはますます眩しい笑顔を見せる。
「模擬店ですか?」
「うん、クラスのね、コスプレ喫茶、知らない間にこの格好に決められててね」
それってきっと、不二くんに王子様の格好をさせたくてコスプレ喫茶になったんだろうな……
女の子たちの盛り上がりぶりを想像しながら、ありがとうございます、そう言って差し入れてもらった紅茶を、ひとくち口に含む。
「でもいいんですか?、こんなところに来て……不二くん目当ての女の子たちで、すごいことになってるんじゃないですか?」
「それが、回転率が悪くてね……客引きも兼ねてその辺ウロウロして来てって……」
ああ、確かに……
王子様姿で給仕する不二くんに、目をハートマークにしてうっとりする女の子たちの様子がありありと目に浮かんで……
学園の王子様はこれ以上ない客引きの目玉商品だけど、薄利多売にはむかないですね、なんて苦笑いした。