第83章 【ガクエンサイ】
クローゼットを開けると、片隅の紙袋に手を伸ばす。
少しためらってから取り出すと、ゆっくりとその中身を確認する。
この間のことなのに、もう懐かしいな……
一瞬だけ開けてすぐ閉じた袋の中のそれは、英二くんが作ってくれたクラス模擬店で使うネコ耳……
英二くんが私に着けさせたくて提案し、手作りになるって決まった時、もう一度、将来の約束を言葉にしてくれたものなのに……
「こんなことしか、もうしてやれないからさ……」
渡してくれた時の別れの言葉が頭の中で蘇り、いまさらながら涙が溢れて慌てて拭う。
結局、別れの象徴みたいになっちゃって、未だに試着できないままになっていて……
私、これをつけても、冷静でいられるのかな……?
今日と明日はイベント大好きな英二くんが大活躍する日……
きっとたくさんドキドキして、その何倍も涙を流す2日間……
いつものように窓辺から空を見上げると、すーっと大きく深呼吸をする。
それから、たとえ何があっても、その全てを受け入れる覚悟を決めた。
学校に到着すると、そこに広がるのはいつもと全く違う空間。
バルーンで飾り付けられた、大きくて華やかなアーチを見上げる。
青と白の青学カラーはその向こうの清々しい空と同じ……
大好き……ポツリとつぶやいてそーっと手を伸ばした。
「おはようー、小宮山さん、いよいよだね〜!」
後ろから聞こえた声に慌てて手を引いて振り返る。
それは生徒会執行部の子たちで、私が手直ししていると思ったのか、どっかおかしかった?、そう不安そうな顔をする。
「気になるところあった……?、小宮山さん、飾り付けには参加してなかったもんね」
「い、いいえ!、素敵だなって思ってたんです!」
両手を顔の前で大きく振ると、慌てて笑顔を作って否定する。
むしろ私が参加していたら、きっと台無しにしていましたから、そう心の中で苦笑いした。