第83章 【ガクエンサイ】
「小宮山先輩はどうして制服のままなんですか?」
「え?、あ、私、生徒会執行部ですから……」
彼女の明るい声にハッとして顔を上げると、慌てて笑顔を作って腕の腕章に手をかける。
生徒会執行部はパレードを誘導と監視するため制服着用になって、そのおかげで仮装せずに済むから、私としては願ったり叶ったりなんだけど……
「えー、残念ですね……ところで先輩、英二先輩、しりませんか?」
この格好、はやく見てもらいたいんだけどなー……、そう言ってキョロキョロと辺りを見回す鳴海さんのその様子に、胸に重苦しい感情が広がってくる。
さあ……、ゆっくりと首を横に振って、それからまた足元に視線を落とす。
「パレードには参加することになっていますから、きっとクラスの人たちと一緒じゃないでしょうか……?」
「そうですよね……LINEしてみようかなー?」
携帯を取り出して操作し始めた鳴海さんから少し距離を置くと、英二くん……、そう彼を思い出して痛む胸をギュッとおさえる。
あれから一週間、とうとう英二くんを避け続けたまま今日になってしまった。
体育祭の時も直前で気まずくなって、当日は鳴海さんと仲良いところを目撃して、凄く辛くて泣きそうになりながら過ごしたけど、学園祭もだなんて、結局、私たち、そういう巡り合わせになってるんだろうな……
「あ、見つけた!、英二センパーイ!!」
追い討ちをかけるように、隣で鳴海さんが嬉しそうな声を上げる。
その声に反応して英二くんが振り返ったから、慌てて顔を合わせないように視線をそらす。
それでは失礼します、そうペコリと頭を下げて、逃げるようにその場を後にした。
大好きで、大好きで、どうしようもなく大好きで……
あの日以来、恥ずかしくて、自分が情けなくて……
辛くて、胸が苦しくて、もうどうしたらいいかわからなくて……
こっそり振り向くと、英二くんの前でくるりと回り、チアリーダーの仮装を見せる鳴海さんが見えた。
2人を包み込む空気はとても幸せそうで……
彼女の嬉しそうな笑顔も、それを見つめる英二くんの眼差しも……
誰か、助けて……
振り絞った私のその声は、パレードのざわめきによってかき消された……