第14章 【キュウジツ】
「だいたい、もし告られたらなんて答えるつもりなんですか?」
「『ん、すんげーうれしい、けど……ごめんね?』」
思わず聞いてしまって後悔したけれど、顔色変えずに即答した彼の、まるでセリフのような返事は聞き覚えがあるもので、あれ?って考え込む。
「……それってあの時とすっかり同じじゃないですか?」
「そ、毎回、同じ」
そう言う彼に、英二くんらしいなって思うと同時に、変に気を遣われるよりずっといいやって思った。
そして彼を見上げると、相変わらずどこか遠い目で空を見上げていた。
あ、また……
英二くんはこうやってふとした瞬間に空を見上げ、少し寂しそうな目をする。
そんな彼の切なそうな顔は私の心と視線を縛り付ける。
「……ん?どったの?オレに見惚れちゃったー?」
そんな私の視線に気づいた英二くんの顔がおどけた笑顔に変わる。
そんなんじゃありません、私はそう言って慌てて顔を背ける。
俯いたまま髪の毛で隠してそっと視線を彼に戻すと、英二くんはまた同じ寂しそうな顔をして空を見上げていて……
もしかしたら彼は空を見上げながら、空ではない何かを見ているのかもしれない……
だとしたら、どうして英二くんは寂しそうな顔をするのだろう……?
もし何か理由があるのだとしたら、私が少しでもその心を軽くしてあげられたらいいのに……
彼の身体を慰めるだけの存在ではなく、心の方も癒やしてあげられる存在になれたらいいのに……
そう叶いもしない願いを心の底に押し込めると、私は彼のシャツの裾に小指の先でそっと触れる。
英二くんには絶対気づかれないように、ほんの少しだけ……本当に小指の爪の先のほんの少しだけ……
本当は今すぐ英二くんに寄り添いたい……
でもそれは彼に求められたときにだけ許される行為だから……
決して私からは求めてはいけない行為だから……
彼の視線の先の空を見上げながら、小指の先に全神経を集中させて、そして彼を感じ胸を焦がした。