第14章 【キュウジツ】
「そろそろ行く?」
英二くんが私の方を振り向いてそう言うから、慌ててこっそり触れていた小指を離す。
行くってどこへ?そう不思議に思って聞くと、彼はペットショップの袋を指差し、持って帰れんの?そう呆れた顔をして私を見下ろす。
「あ……よろしくお願いします……」
「あとどんくらい?あんな時間にここにいたんだから、そんな遠くないんでしょ?」
そう言う彼の言葉に、あの早朝の英二くんと女の人を思い出し、胸が苦しくなる。
あの時は彼のあの笑顔の衝撃で、ショックは少なかったけど、今、改めて思い出すとガツンとダメージが胸を襲って……
やばい、泣きそうかも……
ダメ、絶対泣いたらダメ、彼に悟られてしまわないように、10分くらい?そう何でもない顔で答える。
自宅までの道のりを並んで歩くも、私達の間に会話はなく、交わす言葉と言ったら私の道案内に彼がほいほーいと反応する程度。
私達って普段、身体を重ねるだけで何も話したりしないもんね……そう思ったらまた胸が苦しくなった。
もともと私は会話が得意じゃないし、英二くんも私とは必要以上に話さないから、そんなの当たり前なんだけど。
私がもっと積極的に話せたら、もっと明るく笑えたら、英二くん、私のこと少しは好きになってくれるかな……?
オレは明るく元気な子、一緒にいて笑いあえる子が好きだよん、以前、こっそり本に隠れて盗み聞きした、彼とクラスメイトとの会話を思い出す。
ううん、違う、多分私が積極的に話しかけたりしたら、彼は離れて行ってしまう……
彼は私にドライな関係を求めているから、だからこのままでいいんだ……
そう思ったらますます苦しくなり、視線の先が涙でにじんだ。
あぁ、もう!考えるのはやめよう!
考えれば考えるほど、どんどん暗くなってしまうもの。
今はせっかくの休日を彼とともに過ごせる偶然に感謝し、この時間をめいいっぱい満喫しよう。
顔を上げて背筋を伸ばし、彼の横顔を見上げて笑った。