第82章 【キョウフノキオク】
「小宮山さん……警察には……」
「いいえ……大ごとには……親にも心配かけますし、好奇の目に晒されたくないんです……」
それに、英二くんにだって迷惑をかける……
彼らが罪に問われることになったら、英二くんだって事情聴取をうけることになる。
それどころか、あの場所が明るみになったら、捜査の手まで伸びるかもしれない……
「それに、私が悪かったんです……私があの時、もっと警戒していたら……」
そう、あれはそういう場所だとわかっていたのに、気を抜いてしまった自分の落ち度……
今更、他の人を責めたところで、仕方がない……
「……小宮山さん、それは違うよ」
静かに響いた不二くんの少し低い声……
え?、不思議に思って顔を上げると、彼は真剣な顔で私を見ていて、絶対に、そうもう一度、静かに繰り返す。
「性犯罪は加害者が100パーセント悪いんだ、小宮山さんにはなんの落ち度もないよ」
自分を責める必要なんか一切ないよ、不二くんのその言葉に、別の涙が溢れ出る。
ありがとう、ございます、そう声を振り絞って呟くと、少しだけ心が軽くなった気がした。
「……だけど、許せないな……その男たちは当然だけど、小宮山さんを巻き込んだ英二も……」
泣き続ける私の隣に、黙って座ってくれていた不二くんが、そう静かに呟く。
ハッとして顔を上げると、彼はとても険しい顔をしていて、その瞳の奥からは、抑えきれない怒りの感情がひしひしと溢れ出していて……
「……あ、あの、不二くん、英二くんはちゃんと助けに来てくれたんです……英二くんのお陰で、その……最後までは、大丈夫でしたから……ですから、英二くんのこと、怒らないでくださいね……?」
だって、英二くんは悪くない……
巻き込まれたんじゃない、勝手に私が蜘蛛の巣に飛び込んでいって、勝手に捕えられただけ……
慌ててそう声をかけると、不二くんは目を見開いていて、それから、小宮山さん、キミって人は……、そう呆れたようにため息をついた。