第82章 【キョウフノキオク】
ドクン、ドクン____
大丈夫……大丈夫だったら……
怖いはず、ないじゃない……
あんなに、いつだって優しい不二くんなんだから……
不二くん、なんだったら……
「……や、やめて……不二くん……これ以上は……お願い……」
瞳に溜まった涙が頬にこぼれ落ちると同時に、耐えきれなくなり懇願する……
私のその震える声に、体温が感じられる距離まで近づいていた手をピタッと止めた不二くんは、そっと手のひらを握りしめて、それからゆっくりと下ろした。
結局、不二くんのこと、拒否しちゃった……
また嫌な思い、させちゃったよね……
ごめんなさい……、震え続ける声で謝る私に、僕の方こそゴメンね、試すようなことをして……、そう謝り返した不二くんの声はいつもの優しいものに戻っていて……
だけど恐る恐る見上げたその笑顔には、複雑な感情が見え隠れしていた。
「……先日、クラスメイトと行ったカラオケ店……英二くんの行きつけの場所だったんです……」
不二くんと何度か寄り道している赤い鳥居の小さな神社……
境内に並んで座り、あの日の出来事を彼に話す。
ペラペラ言いふらして歩く話じゃないから、たとえ不二くんにだって話すつもりはなかったんだけど、それでも、真実を知りたがる彼の強い意志には逆らえなくて……
ただでさえ自分のことを話すのは苦手なのに、内容が内容だから、なかなか言葉が出てこなくて……
でも不二くんは察しがいいから、やっと絞り出した最初の一言で、全てを理解したようで……
ゴメンね、辛いこと思い出させて……、そう言って私のことを気遣ってくれた。
いいえ、大丈夫です、そう出来るだけ平静を装って首を振ったけど、やっぱり改めて言葉にするのはすごく辛くて……
不二くんが気にしちゃうのに、涙も震えも止まらなくて……