第82章 【キョウフノキオク】
「なぁなぁ、小宮山、俺にも教えてよー?」
急に後ろから聞こえて来た男子生徒の声、それからトントンと肩を叩かれた感覚。
その瞬間、ビクッと大きく身体が跳ねてその手を振り払う。
「ご、ごめんなさい、えっと、いいですよ、どれですか?」
慌てて笑顔で取り繕ったけれど、心臓はずっとバクバクしてて……
やっぱり身体に纏わりつく男たちの感触が鮮明に蘇って……
「璃音、どうしたの……?」
「別に、どうもしてませんよ?」
こんなこと、いつまで続くんだろう……
あの男たちへの嫌悪感も、男の人への恐怖も、英二くんへの気まずさも……
終わりの見えないこの状態にまた深いため息をつく。
そんな私を自分の席から英二くんがジッと見ていた……
「……小宮山さん、何かあった……?」
帰り道、そう私に問いかけた不二くんの顔に、いつもの穏やかな笑顔はなかった。
え……?、一瞬、意味がわからず聞き返すと、何か、あった?、そうゆっくりと繰り返す。
何か……?、あ、朝のことで不二くん、気になってるんだよね……
「朝のことなら申し訳ありません、本当にびっくりしただけで……」
慌てて頭を下げると、目に飛び込んで来たのは不二くんのキレイな指……
ゆっくりと、私の頬に伸びてくる……
「不二くん、あ、あの……?」
「シッ、黙って……」
鋭い視線のまま、反対の人差し指を唇に当てる不二くん……
あ、もしかして、私が嫌がるか、試してる……?
大丈夫……不二くんだもん……
今度は朝と違って咄嗟じゃないし、ちゃんと分かってることだもん……
拒絶反応なんか起こしたりしないよ……?
そう自分に言い聞かせながら、そのキレイな指が頬に触れるのを待つ。
ドクン____
……大丈夫なはずなのに……
もう少し、あと少しでその指が頬に触れる、そう思うと騒ぎ出す心臓……
脳裏に浮かんでくるニヤケ顔に、震える腕をもう一方で必死におさえる……