第82章 【キョウフノキオク】
「……小宮山さん……大丈夫……?」
顔、真っ青だけど……、そう言って心配してくれた不二くんが、ゆっくりとこちらに手を伸ばす。
私の腕に触れる直前、また大きく震える身体……
なんでも、ありませんから、そう顔を上げてなんとか声を振り絞る。
「あ……」
微かに聞こえた声に思わず振り返ると、そこにいたのはちょうど登校してきた英二くんで……
ヤダ、あわせる顔なんか、ない……!
本当にすみません、それではまた、そう慌ててその場から走り出す。
小宮山さん!、そう不二くんの呼び止める声が聞こえたけれど、構わずに教室へと逃げ込んだ。
「……小宮山、さん……おはよ……」
急いで逃げ出したって教室は同じなんだし、ましてや隣の席なんだから意味はなくて……
自身の席に着くとすぐに、英二くんから声をかけられる。
だから、合わせる顔なんかないし、何を言ったらいいかもわからないの……!
美沙、おはよう、そうガタガタと座ったばかりのイスから立ち上がると、慌てて美沙の元へと駆けつける。
「おはよう、璃音ー、英語の宿題やってきたー?」
「……はい、それはもちろん、してきましたけど……」
「写させ……」
「ダメですよ、宿題は自分でしなくちゃ」
間髪入れず断る私に、だよねー、なんて美沙は苦笑いして、諦めたように机の中から英語の教科書を取り出す。
「英語は4時間目ですからまだ時間ありますよ、私も可能な限り手伝いますから」
「んー……璃音なら簡単だろうけどさー……」
せっかく英二くんが挨拶してくれたのに、アレ以来、毎日こんな状態が続いていて……
申し訳ないなって思うんだけど、やっぱり前のように平気なふりなんて出来なくて……
そう言えば、英二くんが現れて慌てて逃げてきちゃったけれど、さっきは不二くんに悪いことしちゃったな……
急に襲ってきた恐怖はもう消えていて、やっぱり、気のせいだよね、そう自分に言い聞かせる。