第82章 【キョウフノキオク】
「私はこんなことくらいしか出来ませんから……でも無理しないでくださいね?」
少しは休まないと、身体、壊しちゃいますよ?、そう言ったところで後ろの方から聞こえてきた男子たちの騒ぐ声と、バタバタと近づいてくる派手な足音……
なに?、そう確認しようと視線を向けた瞬間、勢いよく引き寄せられた感覚と、すぐ近くで聞こえた「小宮山さん、危ないっ!」そんな不二くんの叫び声……
え____?
気がついたら、私は不二くんの胸の中にいた……
「キミたち、廊下を走ったら危ないじゃないか!」
バタバタとすぐ後ろを走り抜ける数人の足音……
すぐ耳元で不二くんの少し低い声……
ギュッと私の後頭部に添えられた手に力がこもる。
ドクン____
その瞬間、大きく心臓が震え、一気に血の気が引いていく。
イヤッ!、慌てて不二くんの胸を押しもどすと、後ろに仰け反り距離をとった。
シン、辺りが静まり返り、それからゆっくりとざわめき出す。
なに?、なんで嫌がるの?、そんな周りの声にハッとして顔を上げると、不二くんがすごく驚いた顔で目を見開いていて、そんな彼の様子に自分のしてしまったことに気がついて、慌ててガバッと頭を下げる。
「ごめんなさい、ちょっとびっくりしてしまって……せっかく助けていただいたのに、本当に申し訳ありません。」
不二くん、私があの男子生徒たちとぶつからないように守ってくれたのに……
無意識にでも跳ね除けちゃうなんて、失礼なことをしちゃった……
だけど、我にかえっても消えない胸のざわめき……
ドクン、ドクン____
騒ぎ続ける心臓の震えは、あっという間に全身へと広がって行く……
こ、怖い……?
そう、怖いんだ……、不二くんの腕を自覚した途端、蘇ったあのカラオケ店での出来事……
不二くんの手はいつもと同じですごく優しいものなのに、私の身体を撫で回したあの男たちのものと重なって……
ギュッと震える身体を抱え込み、必死にその恐怖に耐えた。