第81章 【ゲンジツトウヒ】
「英二、あのクマのぬいぐるみ、家族にも触らせないのよ……びっくりしたわよね?」
「はい、でもそんなところもすごく可愛くて素敵だと思います!」
大五郎を抱えたまま窓辺に腰を下ろすと、そんな会話をぼんやりと聞き流す。
別にこれは可愛さ狙ってねーよ……、なんて内心思いながら、秋晴れの空を眺める。
「……先輩?」
かーちゃん達が部屋から出て行くと、そう芽衣子ちゃんが恐る恐る声をかける。
ほんと、ごめんな?、ポツリと呟くと、いいえ、私の方こそ勝手にごめんなさい、そう芽衣子ちゃんは頭を下げた。
「……あの、昨日、お家で大変だったって……」
あ、って思って、芽衣子ちゃんの顔に視線を向けると、芽衣子ちゃんはジッとオレのほうをみていて……
そうだよな、昨日、市川はねーちゃんってことでバイト先に連絡をしてくれて、だからこそ、店長から早退の許しが出て……
ああ、うん、そうだったんだけどね……、そう気まずく思いながら返事をすると、でも、昨日、外泊したって……、そう泣きそうな顔で目を伏せた。
小宮山なら、わざわざ教室に迎えに来たりしない……
小宮山なら、オレの家に押しかけて来たりしない……
小宮山なら、オレの事情に土足で踏み込んで来たりしない……
小宮山なら……
小宮山なら……
何をしていても、考えないようにしていても、いつだって芽衣子ちゃんと小宮山を比べている自分がいて……
大五郎を放り投げると、芽衣子ちゃんを引き寄せベッドへと押し倒す。
強引に唇を奪うと、そのまま一気に舌を絡ませる。
「せ、せんぱ……ふぁ……」
「芽衣子ちゃんが心配するようなことなんか、何もないよん……?」
家族がいるから、イイコエ、絶対、我慢してよねん?、そうニヤリと笑ってその顔を覗き込むと、芽衣子ちゃんは嬉しそうに頬を染めて小さく頷いた。
小宮山なら、こんな状況で、絶対、受け入れたりしない……
オレ、いったい何やってんだよ……?
芽衣子ちゃんの身体に貪りつきながら、また小宮山の身体を思い出した。