第81章 【ゲンジツトウヒ】
「あ、先輩、お帰りなさい!」
勢いよくドアを開けると、床にぺたりと座っていた芽衣子ちゃんが振り返る。
このクマちゃん、先輩の鍵についてるマスコットとお揃いなんですねー、そう笑う彼女の手の中には大きなクマのぬいぐるみ……
当然、それは大五郎で、目を見開いてその光景を眺める。
ドクン____
「……なに、勝手に触ってんだよっ!」
考えるより先に身体が動いていた。
芽衣子ちゃんの腕の中から大五郎を奪い取ると、ギュッと抱きしめ思い切り睨みつけた。
バクバクと心臓が耳元で騒いで、うるさくて仕方がなかった。
そんなオレの様子に、芽衣子ちゃんが身体を固まらせる。
あ、あの、私……、そう戸惑いながら呟いた声が、かすかに震えていて……
あ……、そうすぐに我に返ったんだけど、泣きそうな顔をして俯いてしまった芽衣子ちゃんのその様子に、ただもう気まずくて……
すぐに謝んなきゃなんないのは分かってんだけど、上手く言葉が出てこなくて、オレも一緒に俯くしかできなくて……
バタバタとオレの大声に驚いて階段を駆け上って来た家族が、英二……、そう声をかける。
すげー情けなく思いながら、かーちゃんとねーちゃん達の顔を見ると、みんな、何が起こったのか、全てを察した顔をしていて……
「……ほら、謝んなさい……」
「……分かってる……ゴメン、芽衣子ちゃん……」
親に促されて謝るなんて、ガキみたいで情けなくて……
大丈夫ですよー、そうすぐに笑って許してくれた芽衣子ちゃんの顔を、真っ直ぐ見ることができなくて……
「英二、大丈夫……?」
「……ん、もう落ち着いたから……ごめん、かーちゃんも、ねーちゃん達も……」
ギュッと大五郎を抱きしめると、すーっと大きく息を吸って深呼吸を繰り返した。
「ごめんなさいね、えっと……鳴海さん、だったわよね?」
「はい、大丈夫です!、英二先輩にはいつもお世話になってます!」
よろしくお願いします!、改めてお茶を持って来たかーちゃんに芽衣子ちゃんがあの満面の笑みで挨拶をする。