第81章 【ゲンジツトウヒ】
「どうしたの!?、こんな早く……ゆっくりしてくるんだと思ったのに……」
「あ、うん、そのつもりだったんだけど、なんか疲れちゃって……」
あ、別に美沙と喧嘩したわけじゃないよ?、そう明らかに心配そうな顔をするお母さんに、慌てて先回りで否定する。
だってお母さん、英二くんのこともだけど、いつも私が悩んでいても、根掘り葉掘り聞かないで、こっそり見守ってくれるから……
それが私としてはありがたいんだけど、本当は気がきじゃなくて、心を痛めているはずだから……
さんざん心配かけた友人関係では、もう安心していて欲しいもの……
「そう……璃音が昨日のような遊び方するの、初めてだもんね、疲れるのも無理ないわよね」
「うん、クラスメイトとカラオケも楽しいけれど、やっぱり私は静かな方が好きかな」
もう当分、カラオケはいいや、なんて苦笑いして、あ、でも学園祭の打ち上げもカラオケって言ってたかも、そう言ってまた笑う。
そんな私に、母はまた何か言いたそうな顔をしていたけれど、そう、と小さく頷きながら髪を撫でてくれた。
「朝ごはん、用意するわね……?」
「あ……ううん、シャワー浴びて少し寝るから……」
実際、身体はクタクタで、ずっと汗をかいていたから気持ち悪くて、あんなことがあったから食べ物も喉を通りそうになくて……
だけどそんな私に、それでも食べなさい、そう言ってお母さんはキッチンへと戻っていく。
「空腹だとどうしても嫌な事ばかり考えちゃうのよ?」
やっぱり嫌なことがあった事、お母さんにはお見通しなんだな……
それじゃ、少し食べようかな、そう言って苦笑いで返事をした。
部屋に戻ると制服を開けて、荷物から昨日着て行った服と英二くんに用意してもらった服を取り出す。
自分の服はわりと気に入っているものだったけど、とても洗濯してまた着る気にはならなくて、ため息をついて処分することに決めた。
英二くんが用意してくれた方は……また着たいと思うようなデザインじゃないけれど……
でも、せっかくの英二くんの心遣いだもん……
やっぱり捨てることは出来なくて、あとでこっそり洗濯することにした。