第14章 【キュウジツ】
「え、英二くん……どうして……?」
そう混乱して聞く私の横に身体を投げ出すように座った彼は、おっちゃんの頼みだかんね、そう言って肩で息する。
「疲れたー……でも、すげー、気持ちいいー……!」
そう息を切らして笑う彼の笑顔は、本当に気持ちよさそうで、光る汗と同じくらいキラキラしていて、きっとこれが彼の心からの笑顔なんだろうな、そんな風に思って……
きっとテニスをしていた頃はこんな顔でプレイしていたんだろうな、そう思ったら私も見てみたかったな……そう少し残念に思った。
「おまえなー、メール見ろよ!」
「え?メール……?」
息を整えた彼がそう私をチラッと見て言うから、慌てて携帯を確認してみると、英二くんから何通かメールが届いていた。
最初は普通に『すぐ連絡してよ』のメールが、段々必死になってきて、最後は『お願いします』と頼まれてて、それが可笑しくて思わず笑ってしまった。
「笑い事じゃないかんな!こっちは必死だったんだぞ!」
そう頬を膨らます英二くんが可愛くて、緩んだ顔のままごめんなさいと謝ると、あー、その顔、全然悪いと思ってないなー?そう言って彼は私の顔を指差しながら覗き込んだ。
「ったく、番号くらい教えておけっての!つーかLINEやれよ、LINE、何で入れてねーの?」
「……必要性を感じないもので」
そう言う私に携帯貸して?そう彼が言うから、どうぞ?と手渡すと、英二くんは私の携帯をサッと操作しながらマジ?と笑う。
「小宮山のメール、とーちゃんとかーちゃん以外、オレしかないじゃん!」
「お店のダイレクトメールも来ますよ?」
「それ、メールって言わねーって」
そう言って笑う彼が私の携帯から電話をかける。
英二くんの電話がワンコールして切れると、これオレの番号、なんかあったらかけるから、そう言って私に携帯を返す。
その彼とのやりとりに幸せを感じながら、はいと頷いてその携帯を受け取った。