第80章 【チカクテトオイヨル】
カチャっとバスルームのドアが開いて、小宮山が顔を覗かせる。
ハッとして振り返ると、風呂から出たばかりの小宮山はバスローブに身を包んでいて、普段の真っ白い肌はほんのりピンク色に染まっていて、濡れてまとめた髪が色っぽくて……
こんな時に不謹慎だよな、そうずっと考えないようにしていた煩悩が一気に脳内に押し寄せる。
小宮山、さっきオレが買ったレースのエロい下着、着けてんのかな……
そんな風に思ったら思いっきり想像しちゃって、慌ててその如何わしい妄想を追い払う。
「あ、出た?、んじゃ、オレ、そっちで寝るからさ……」
「……はい……」
「……そうだ、市川には連絡しといたよん……、大丈夫、詳しいことはなんも言ってないから……、オレの知り合いと一緒だったってだけ……」
「……ありがとう、ございます……」
辿々しい喋り方はオレに対して警戒しているからか、それとも、相当身体がキツイからか……
ふう……、そう小宮山が息を吐いて少し前かがみで身体を抱えたから、今度は思いっきり胸の谷間が目に入って……
髪から滴り落ちた水滴が、ポタポタとそこに吸い込まれていく様子に、思わず目が釘付けになってしまい、それに気がついた小宮山が慌ててバスローブを寄せて谷間を隠す。
「ご、ごめん!、オレ、そんなつもり無かったんだけど、つい……」
「……いいえ……大丈夫、ですから……」
慌てて謝りバスルームに飛び込んでドアを閉めると、直ぐに小宮山が返事をしてくれたから、ホッと胸をなでおろす。
良かった……これ以上、小宮山に嫌われたくない……
……今更、そんなこと言える立場じゃないけれど……
「んじゃさ、オレ、こっから出ないから、安心して休んでよ……?、トイレは行くかもしんないけどさ、部屋ん中は見えないし……」
「……すみません……」
「……もし……なんかあったら……声、掛けて……?」
「……大丈夫、です……」
ドア越しに交わす会話の返事は相変わらず最低限で……
おやすみ、最後に付け足した久しぶりのオレの「おやすみ」に、小宮山からの返事は返ってこなかった……