第80章 【チカクテトオイヨル】
服も下着も、場所柄、色っぽいデザインのものばかりで、到底小宮山の好みとはかけ離れているけれど、幸い、サイズはピッタリなものが揃えられて、ほっと胸をなでおろす。
「小宮山……、新しい下着、ここ、置いとくよん……?」
「……え?、新しい……?」
「ん、ここ、そういうサービス、充実してるからさ……」
バスルームのくもりガラス越し、出来るだけ見ないように声をかける。
あくまでも購入したことは内緒、小宮山はきっと気にするだろうから……
「洗濯、してないけどさ……さっきのよりはマシじゃん?」
そんなオレの問いかけに、ありがとう、ございます……、そう小宮山は小さく呟いた。
「もしもし、市川」
『英二!、連絡遅いっ!璃音は!?、大丈夫なの!?』
小宮山が風呂に入っている間に、携帯から市川に連絡を入れる。
市川からは沢山の着信やLINEが来ていて、ずっと携帯を手に小宮山を心配していたんだろう、間髪入れずにオレの着信に反応した。
「大丈夫、何でもなかったよん……」
『何でもないって、そんなわけないでしょ!?、璃音、今、どこ!?、あれから璃音にも全然通じないのよっ!、一緒なの!?』
そりゃ、大丈夫で市川が納得するはずないよな……
でも、いくら市川にだって、本当ことなんか言えっこないし……
「本当、大丈夫だったって、オレの知り合いでさ、そんで小宮山のこと知ってて……、その、別れたって言ってなかったから、ちょっと入れ違いがあって……」
『はぁー?、それ、本当なの?、嘘くさいわね!、璃音に変わりなさいよっ!』
「……今はちょっと……大丈夫、ちゃんと家に送ってくからさ……」
なかなか納得しない市川に、大丈夫だから、そう何度も繰り返してごまかし続ける。
もっと気が利いた言い訳ができればいいんだけど、これ以上、オレの頭じゃ思いつかなくて……
「じゃ、そう言うことだから、もうきるよ!」
『あ、え?、ちょっと待ちな……』
結局、無理やり話を切り上げて、こっちから一方的に通話を終わらせた。