第80章 【チカクテトオイヨル】
「小宮山、お風呂にお湯入れたからさ、ゆっくりはいんなよ……?」
部屋に入るとすぐにバスルームでバスタブにお湯を入れて、それから小宮山に声をかける。
辛そうに身体を抱えてベッドに横になっていた小宮山は、オレのその声にまたビクッと身体を跳ねさせた。
「……ゴメン、お風呂、入れたからさ……」
「……すみません、あの……もう、私、1人で平気ですから……鳴海さんのところに、戻って……ください……」
滲む涙には、いったいどれだけの意味が込められているのか……
まぁ、どんな理由だとしても、原因はすべてオレにあるんだけど……
そのくせ、ほんと勝手なもんで、小宮山から芽衣子ちゃんのところに戻れなんて言われると、信じらんないくらい、すげーショックで……
さすがにもう、オレのこと、嫌いになったって仕方がないよな……
すっかり乱れた外ハネの髪に触れながら、小宮山から視線をそらす。
「……今夜は小宮山と一緒にいる……嫌だって言われたって、1人になんか出来ないから……」
ベッドの上に二つ並んで置かれていたバスローブのひとつを手に取ると、オレはバスルームででも寝るからさ、そう言って小宮山に手渡す。
小宮山は少しためらってから、震える手でそれを受け取った。
「もしもし……あ、店長……、うん、オレ……あの後さ、結局、いつものホテルに来てて……そんで、ちょっと頼みがあんだけどさ……」
小宮山がシャワーを浴びている間に、カラオケ屋の店長に連絡して、ホテルのオーナーに口利きをしてもらう。
それからフロントに電話をして鍵を開けてもらって、ついでに小宮山の服や下着を購入した。
クリーニングも頼めば、朝までやってくれるけど、多分、それでも小宮山は嫌だろうから……
それにオレだって、あいつらが触ったやつなんか、もう着てもらいたくないから……