第80章 【チカクテトオイヨル】
ゴメンな……?、本当は言いたくなんかなかったけどさ……
こうでも言わなきゃ、小宮山、絶対、家に帰るって言って聞かないじゃん?
オレ、はやく小宮山をゆっくりさせてやりたいんだ……
あいつらの匂いもさっさと洗い流してもらいたいし、それにそんな顔、他の誰にもみせたくねーし……
熱っぽい視線で見上げるその小宮山の高揚とした顔は、オレだけに見せていたものと似ているようで全然違う……
苦痛と屈辱に歪んだ、負の感情以外、何もない顔……
だけどなんも知らない奴から見たら、それはきっと快楽を求めて彷徨ってるようにしか見えなくて……
ほんと、何もしないからさ……?、そう言って小宮山を支えて立たせると、小宮山は観念したように歩き出した。
ガチャリ____
人目を気にしてホテルに入り、部屋のドアを閉めた途端大きく響いた施錠の音に、ビクッと小宮山が肩を跳ねさせる。
小宮山……?、その反応に不思議に思って振り返ると、ハッとしてオレを見あげた小宮山のその顔に愕然とした。
それはまるであの時と同じ……
体育館倉庫でオレに襲われて、不安と恐怖に怯えきっていた時とすっかり同じ顔……
「な……に……して……?」
「何って……鍵の確認じゃん?」
一気に蘇るあの時の記憶……
加害者なんて本当、勝手なもんで、絶対、許されない事をしたくせに、そんなこと普段はすっかり記憶の奥底に追いやって、こんなことでもなきゃ、これっぽっちも思い出しやしない……
……そりゃ、あんな目にあわされちゃ、オレに無理やりヤられたことも思い出して、オレのことだって怖くもなるよな……
「……すぐに開けてもらうからさ……ここのオーナー、あの店の店長と知り合いで、オレらけっこう融通効くからさ……」
オレのその言葉に、あ、いえ、その……そう慌てて視線を泳がせた小宮山は、はい、すみません……そう気まずそうに頷いた。