第80章 【チカクテトオイヨル】
『あ、英二!、私!、市川!!』
ねーちゃんから、そう聞いて出た電話は実は市川からで、市川!?、なんて思わず声に出しちゃって、隣で心配そうに様子を伺ってる店長に、あ、いや、ね、ねーちゃん、そう慌てて言い直す。
……それにしたって、なんで市川がオレに、しかもバイト先に電話なんか……
それは余程の急用じゃなきゃありえない話で、そんな急用なんて、今のこの状況で考えられるのは一つしかなくて……
『璃音は!?ねぇ、本当なの!?、あんた、璃音!!』
やっぱり小宮山に何かあったんだ……!
それはすぐに分かったけれど、でも詳しいことは全然、理解できなくて、とにかく落ち着けって!、そう興奮状態でまくし立てる市川に、強めの声をかける。
でもそれはオレ自身に向けた言葉……
もし嫌な予感が本当になったらと思うと、心臓がバクバクして破裂してしまいそうで……
そんなオレの言葉に市川は、これが落ち着いてなんかいられないわよ!そうもう一度声を荒げた。
『璃音が、いなくなっちゃったの!!、店員と一緒なのは見たのよ!!、その店員、部屋に来た時、璃音のことジッと見てて……、璃音、トイレの帰りが遅いから気になって様子を見に行ったら、ちょうどその店員と話してて、あの子、そいつについて行っちゃったの!!、すぐに追いかけたのに見失っちゃって、どこ探してもいないの!!』
まだ興奮していて上手く話せない市川だけど、今度は言っていることは理解できて……
やっぱあいつら、小宮山に目ぇつけたんだ、とか、なんでついて行っちゃったんだよ、とか、絶対、裏に連れていかれたんだ!、とか、不安と混乱と確信で受話器を持つ手がガクガクと震えてくる……
『璃音、すごく嫌がってたのに、結局ついて行っちゃって……あのとき店員が確かに『英二』って言ったのよ!、あんたなんでしょ?、じゃなきゃ、璃音がナンパなんかについて行くはずない!!』
その瞬間、ガツンと後頭部を思いっきり殴られたかと思った。
じゃあ、小宮山があいつらについて行ったのは、オレのためかよ……?