第80章 【チカクテトオイヨル】
小宮山、行ってないよな……?
もともと小宮山はクラスの集まりなんかの賑やかなのは得意じゃないし、カラオケなんてなおさら苦手だし……
それに、帰りが遅くなんのだって分かってんだから、ますます行くはずないよな……?
でも市川がノリノリだったからなぁ……
さっきからそんな答えの出ない自問自答を、何度も頭の中で繰り返す。
「先輩、やっぱり、その……そう言うの、好きなんですか……?」
へ?って思って顔を上げると、芽衣子ちゃんが真っ赤な顔で気まずそうにしていて、ああっ!って慌ててジッと見ていたそのDVDから手を離す。
「あの……先輩が好きなら、私、その……飲んでもいいですよ……?、複数の人とは嫌ですけど……」
「や、違っ、特別こんなのが好きとか、そんな訳じゃないからさ!」
おいおい、お前ら、バイト中になんてこと喋ってんだよ、なんていつの間にか近くにいた同僚にニヤニヤ笑われ、芽衣子ちゃんが慌てて恥ずかしそうにその場を離れる。
今夜はお楽しみー?、そうまだからかってくるから、うるさいな、なんて言い返しながら、もう一度、小宮山のことを考える。
大丈夫だよな……?
例え行ってたって、普通に歌うだけなら、裏のやつらとなんて関わるはずないし……
だいたい、あいつらにとっても、沢山いる客のひとりでオレと関係あるなんて思いもしないだろうし……
うん、なにもあるはずない!、そう無理やり自分を納得させると、気を取り直して仕事に戻る。
顔を上げると芽衣子ちゃんとパチッと視線がぶつかって、彼女は相変わらず可愛い笑顔をみせた。
「菊丸くん、急用だってお姉さんから電話だよ!」
バイトも終盤に迫ったころ、バイト先の電話を受けた店長から呼び出される。
すごく慌ててるみたい、携帯に何度も電話くれたみたいだよ、そう言う店長の言葉に、何があったんだよ、そう不安に思いながら慌てて受話器を受け取ると、ねーちゃん?、オレ、なんかあった?、そう恐る恐る問いかけた。