第80章 【チカクテトオイヨル】
ドンっと手がぶつかった感覚と、ガタガタと言うけたたましい音にハッとする。
気がつくと、カウンターに積み上げていた返却済みのDVDが辺り一面に雪崩を起こしていた。
やべ、慌てて、申し訳有りません!、そう店内に謝って片付け始める。
先輩、大丈夫ですか?、そう駆けつけてきた芽衣子ちゃんが心配そうに覗き込んだ。
「あ、ごめん、大丈夫だから、自分の仕事に戻ってよ」
「いいえ、私もこれ、棚に戻すの手伝いますよ。レジ、混んでませんから」
でも、反射神経がいい先輩が珍しい失敗ですね、そう言ってクスクス笑う芽衣子ちゃんに、ほーんと、菊丸様の名が泣くよ、なんて大げさにため息をついて苦笑いする。
こんな珍しいミスをしたのは、今頃、あのカラオケ屋にクラスメイトたちが歌いに行っているから……
ついついその事が気になって、バイト中なのにボーッとしちゃって……
あの日、昼休み、芽衣子ちゃんと弁当を食べて教室に戻ると、みんなが盛り上がっていて、なんだー?と思ったら、あのカラオケ屋のクーポンが教室に落ちていたらしくて……
結局、持ち主も現れなくて、総額から8割引なんて破格の割引率にみんなノリノリになっていて……
余程のことがない限り、クラスのイベントは参加するオレだけど、今回はまさに余程のことで……
まさかあのカラオケ屋に普通に歌いに行くわけにはいかなくて……
まぁ、もともと、バイトや芽衣子ちゃんとの約束で行けなかったんだけど……
崩れたDVDをジャンルに分けながら積み上げて行くと、手に取った一枚に視線が釘付けになる。
それはアダルトコーナーのDVD、媚薬を使った輪姦モノ……、あのカラオケ屋の裏では珍しくもない光景……
胸がモヤンとする感じは、あの時、このカラオケ屋にみんなで行くと聞いてすぐに感じた嫌なものと同じ……
だから本当はすぐに小宮山に言おうと思ったんだ……
だけど、なかなかうまく言い出せないうちに先生が来ちゃって、そのまま、タイミングを逃しちゃって……