第14章 【キュウジツ】
「……さようなら、店長さん。もう二度と来ません」
顔を上げた小宮山は、思い切り心閉ざしたツンツン顔になり、買ったものも持たずに走って出て行った。
あーあ、そう思っておっちゃんを見ると、全く状況を理解できてないようで、呆気にとられた顔をしている。
「あ、え?璃音ちゃん!?」
「おっちゃん、やっちゃったねー、オレ、知ーらないっと」
「知ーらない、じゃないよ、菊丸くん!追いかけてあげてよ~!」
やっと状況を理解したおっちゃんが、そう言って必死にオレの背中を押す。
えー、何でオレが?自分が鈍いから悪いじゃん?そう後頭部で腕を組み、面倒くさそうに頬を膨らませる。
「そんなこと言わないで、タイチの餌あげるからさー、それからこれ、璃音ちゃんにサービス!追いかけて謝っておいてよ、貴重なお得意さんなんだよ~!」
サービスってネコ砂5キロ2つ?カリカリ入れたら12キロじゃん!オウムの餌くらいでこれもって追いかけろってのー?そう言ってあからさまに嫌な顔をする。
頼むよ~!そう涙目で必死に手を合わすおっちゃんに、しゃーねーか、昔からの付き合いだし……そう思って大きなため息をついた。
とりあえず小宮山が走り去った方向に向かい、キョロキョロと辺りを見回す。
見回したところで既にどこにも小宮山の姿はなく、ったく何処だよ?そう思ってとにかく走り出す。
あー、何でオレがこんな思いしないといけないわけ?
だいたい小宮山ん家なんて知らないし、闇雲に走ってもダメなんじゃないの?
つーか携帯あんじゃん、そう気がついて立ち止まり小宮山のアドレスを呼び出す。
そういや番号知らないや、とりあえずメール入れとくか……そう思って『すぐ連絡してよ』そう送信する。
だいたい、12キロ持ってランニングって、まるでトレーニングじゃんか……
ちょっと走っただけで既に息が切れ、手足がガクガク来ている……
すっかり鈍ってんじゃん……当然だけどさ……
汗ばんだ額を握り拳で拭うと、深くため息をついた。