第79章 【ワナ】
「あ、あの……ここって……?」
「ああ、ここのこと聞いてない?、英二もよく遊びに来てたんだけどなぁ……」
ああ……ここが……
夏休み、夜の公園で英二くんが過去の話をしてくれた時、逆ナンされて連れてこられて、初めて女の人と関係を結んだところって教えてくれた……
それからはメチャクチャだった、そうすごく苦しそうに……
辺りを見回して、店内の様子を観察する。
薄暗いその空間には、仲よさそうに談笑してい男女たちが数人いて、どうみてもみんな未成年なのに、タバコを口にくわえて、おそらく飲んでいるものはアルコール……
それを咎めるどころか、一緒になって楽しんでいるカラオケ店の店員さんたち……
きっとここは、私なんて本当は一生、縁のない空間……
本来だったら英二くんだって、そしてここにいる人たちも……
きっとそれぞれ、ほんの少しの歪みがいつの間にか大きくなって、その隙間を埋めるために引き寄せられた……
きっとこの異常な空間も、満たされない人たちにとっては、自分を保つために必要な場所……
「璃音ちゃん、こっちに座ってよ」
相変わらず馴れ馴れしい店員さんに呼ばれて、すっかり考え込んでいたからハッとする。
テーブルに案内されると、とりあえず、これ、飲んでて、そう言って目の前にグラスを置かれた。
これって……、そう鼻を近づけてクンクンと匂いを嗅ぐと、大丈夫、アルコールフリーだから、そう言って店員さんは笑う。
「そ、そんなことより、英二くんは……?」
ここも必要な人にとってはかけがえのない場所なんだろうけど、私にとっては不快でしかなく、一刻も早く立ち去りたいのと、英二くんが心配なのとで、そう急かしてしまう。
その私の問いかけに、英二!?、そう周りの人たちが反応する。
な、なに?、そう驚いてまた固まってしまった私には構わずに、あなた、英二、知ってるの?、英二、元気?、そう一斉に女の子たちが質問し始めた。