第79章 【ワナ】
「なぁ、アンタ、小宮山璃音ちゃん?」
ビクッと大きく身体が震えた。
……なんで?、思わず振り向いてしまい、やっぱそうなんだ、そうその店員さんのニヤケ顔に全身が恐怖で縮こまった。
しまった、知らんぷりすれば良かった……、そう後悔する一方で、どうして私の名前を知ってるの……?、そう思ったら凄く怖くて……
どうしよう……無視して逃げる……?
でも、なんで……?
顔もばれてるみたいだし……
取り敢えず、この人にこれ以上、関わっちゃダメ、そうパニックで上手く働かない頭に言い聞かせると、振り向いた顔を急いで元に戻して無視をする。
とにかく、早くみんなのところに戻ろう……、そう急いでその場から走り出した。
「待てよ、アンタ、英二の知り合いだろ?」
英二くん!?、走り出した足に思わずブレーキをかけた。
どうしてこの人から彼の名前が……?、そうまた恐る恐る振り向くと、やっぱ、そうなんだ、そう言ってその男は含み笑いをする。
「……どうして……?」
「俺も英二の知り合い、アンタもだろ?」
「そんなこと……あなたに関係、ない……」
なんとか声を振り絞ると、それがカンケー大有り、そう言ってその男は私の前に回り込む。
また逃げ道を塞がれたこの状況に、バクバクと更に心臓が暴れ出す。
「英二に頼まれたんだ、アンタを連れてきてほしいってね」
思いがけない話の流れに、え?、そう顔を上げてその男の顔を見た。
……英二くんが私を呼んでいる……?
英二くんが私を呼ぶなんて、もしかして、苦しんでるの……?
嘘、そんなの、嘘に決まってる……
だったら直接LINEが来るはず……
でも、もし本当だったら……?
私の連絡先なんか、とっくに削除しちゃっていたりしたら……?
自分じゃ連絡できないくらい苦しんでいたら……?
「友達も……一緒に……」
そう、もし苦しんでいたら、美沙やクラスメイトたちだって手を貸してくれる……
私1人がこの人について行く必要ない……