第79章 【ワナ】
英二くんもそんな私に気をつかってくれるのか、わざわざ迎えに来なくてもいいからさ?、そう鳴海さんに何度も声をかけていたけれど、だって少しでも早く会いたいんですもん、なんてあのキラキラの笑顔で答えられてて、しかも、先輩は迷惑ですか?、なんて涙目で言われてると、もう何も言えなくなるようで……
「ええ、迷惑よ、さっさと出ていって!」
そう横からピシャリと言い放った美沙に、やだー、市川先輩に怒られちゃいました、なんて、鳴海さんは英二くんなみに可愛いテヘペロを繰り出した。
「なぁ、この割引券、落としたやつ、誰ー?」
英二くんと鳴海さんがお弁当を持って教室を出て行った後、美沙たちと一緒にお弁当を食べていると、教卓の前で1人の男子生徒が一枚の紙を高くヒラヒラさせながら大声をあげる。
割引券……?、そう不思議に思いながらも、自分が落としたわけじゃないので、特に気にもとめず美沙たちとの雑談に戻る。
「なになに?、カラオケの割引券じゃん……って8割引ー!?」
「つったって、室料だけだろ〜?」
「いや、それが総額からなんだって!」
「マジか!、落としたやつ分かんねーなら貰っちゃおうぜ!」
総額から8割引って、飲食代も……?、それって、大丈夫……?、なんて怪しく思いながらお弁当を口に運ぶと、目の前でとっくに食べ終わっていた美沙が、飲食代……8割引……?、そう俯いたまま呟いた。
美沙……?、まさかね、なんて思いながら問いかけると、顔を上げた美沙はキラキラと目を輝かせていて、ガタガタと立ち上がると、それ、私、行く!、なんて大声で手をあげる。
「ちょっと、美沙、怪しいですよ!、そんな採算度外視の割引率……」
「大丈夫よ!ショボかったりしたら文句言ってやるし!」
いえ、それだけではなく……、そう心配する私の声なんて、もう美沙の耳には届いてなくて、普段はあんなにしっかり者なのに……、そう食欲に対して貪欲な美沙にため息をついた。