第78章 【ゾウオノカタチ】
アア、ン……
倉庫内から微かに聞こえる喘ぎ声は、しっかり耳を塞いでしゃがみ込んでも、ずっと鼓膜に響き続ける。
うるさい!うるさい!うるさい!!
どうして、こんな場面に出くわさなきゃならないの?
菊丸先輩、学校関係には手を出さないって言ってたのに……
だいたい、小宮山先輩は不二先輩と付き合っているんでしょ?
なのに……どうして……?
「ハァァッ、アアアァン!」
一段と大きく聞こえた小宮山先輩の歓喜の声……
嫌だったら!、耳をふさぐ手に力を込める。
だけど、2人の荒い息遣いまですぐ耳元で聞こえてくるようで……
バクバクする自分の心臓の音と、震える身体を抱えるようにうずくまり続けた。
先輩……?、どのくらい経ったのか、シン……と訪れた沈黙に、そっと顔を上げてもう一度倉庫内を覗き込んだ。
ズキン、また大きく震える心臓……
そこには、さっきまで男女の営みが行われていたマットの上で、何度もキスを交わし合う2人の姿……
先輩、そういうの、しない主義って言ったのに……
私が先輩に本気だからですか……?
小宮山先輩は不二先輩の彼女で、先輩に本気じゃないから、そうやって優しくするんですか……?
先輩の腕の中に包まれる小宮山先輩の笑顔を見ていると、胸の奥から沸き起こる黒い感情……
ドウシテ アナタハ センパイニ ヤサシクシテ モラエルノ……?
ワタシハ アンナニ ツメタク アシラワレタノニ……
落ちていく心……
その奥底に渦巻く嫉妬心はより深く、激しくなっていく……
クラスメイトと鉢合わせし、慌ててお姫様抱っこで逃げてく2人の背中を眺めながら、先輩……、そうポツリと呟くとハラリと涙が流れ落ちた。
「ねえ、芽衣子、昼休み、菊丸先輩と一緒だったんだね!」
ショックで午後の授業をサボった私に、クラスメイトたちの好奇の視線が集まる。
普段から菊丸先輩と付き合っている、すっかりそう思われていたから仕方がないんだけど、その噂が余計に私をイラッとさせた。