第77章 【セメテユメノナカデハ】
「……先輩!、菊丸先輩ったら!!」
芽衣子ちゃんのオレを呼ぶ声に我にかえる。
さっきまでの小宮山とのやりとりで頭も心もいっぱいで、芽衣子ちゃんと一緒なのにすっかり忘れていて……
先輩、私の話、聞いてないでしょ?、なんて頬を膨らます芽衣子ちゃんに、あ……って慌てて笑顔を作ると、ゴメーン、ちょーっとボーッとしちった、なんてペロッと舌を出す。
「もう、いいですけど……小宮山先輩って、先輩のこと、名前で呼ぶんですね?」
思いがけない小宮山の話題に驚いて、思わず芽衣子ちゃんを勢いよく見ると、芽衣子ちゃんはオレの顔をジッと見ていて……
その伺うような視線に全て見透かされそうで、あ、まあ、時々ね、なんて誤魔化しながら目をそらす。
さっき小宮山がついオレを名前で呼んだの、芽衣子ちゃんに聞こえてたんだ……
でもまぁ、オレのこと名字で呼ぶやつの方が少ないし、なんも問題もないよな……?
ふと芽衣子ちゃんが繋いでいた手の指を絡めてくる。
もともと積極的な芽衣子ちゃんだから、付き合い始めてからは尚更で……
私も名前で呼んじゃおうかな……?、なんて上目遣いで覗きこんでくる彼女に、もちろん、いいよん、そう答えながらも、いつも以上にその手の感触に違和感を感じて……
ああ、さっきまで、小宮山と一緒だったから……
その温もりも感触もリアルに手の中に残っているから……
ちょっとごめん、そう繋がれた手をほどいて携帯を取り出すと、用もないのにLINEを確認するふりをした。
「……英二先輩、今日も寄って行きますよね……?」
芽衣子ちゃんを送りアパートに着いたところで、学ランの裾を掴んだ彼女がそう問いかける。
もう少し一緒にいたいな……、そう少し寂しそうな顔をするその様子に、どうしようか惑って……
部屋に上がって他人の目が無くなれば、することと言ったら決まっていて……
そりゃ、もう何度も芽衣子ちゃんとヤッてるから今更なんだけど、でも小宮山がチラついてる今は、どうしてもそんな気分になれなくて……