第77章 【セメテユメノナカデハ】
「……小宮山先輩、まだ何か?」
「……いいえ、菊丸くんに忘れ物を届けに来ただけです」
一年生の靴箱から訝しげな顔で現れた鳴海さんに、ペコリと会釈すると、それでは失礼します、そうもう一度、英二くんに笑顔を向ける。
英二くんから本当に連絡があるかなんて分からないけれど……
彼からしたら余計なお世話かもしれないし、本当ならこんな理由で連絡なんて来ない方がいいんだけれど……
それでも、私の決意は伝えたかったから……
万が一、英二くんが本当に苦しくなったとき、私のこと呼んでいいんだってわかって欲しいから……
くるり、2人に背を向けて生徒会室へと歩き出す。
背中で聞こえる、先輩、帰りましょう……?、そう鳴海さんの促す声と、あ、うん、そだね……、それに答える英二くんの声……
チラッと振り返ると、私の方をジッと見つめる鳴海さんと目があった。
鳴海さん……ごめんなさい、私、英二くんが好きなんです……
たとえ他の人を傷付けても、英二くんの力になりたいんです……
私、こんなに自己中心的な性格だったんだ……
そんな風に心は傷んだけれど、それでも私の決意は揺らがなくて……
顔を上げて前へ……ううん、横かも後ろかもしれない……
けれど、自分が決めた道をまっすぐに進み始めた。
ふと気がついた、廊下の角でこちらの様子を伺っている不二くんの姿……
見てたんですか?、そう言って苦笑いする私を、なかなか戻ってこないから気になってね、そういつもの穏やかな笑顔で迎えてくれる。
「バカだなって思ってます……?」
「小宮山さんが決めたことなら、僕は何も言わないよ」
英二のために、ありがとう、そう続ける不二くんに、自分のためですよ、なんてゆっくりと首を振って返事をする。
そう、自分のため……
大好きな英二くんのためなら、なんだってしてあげたい……
例えそれが、不毛な想いだとしても____